生活習慣病

高血圧

現在、日本において高血圧の方は約4300万人おられると推定されています。そのなかで、適切に血圧がコントロールされているのは、わずか1200万人であります。つまり、残り3100万人の方は自分が高血圧であるか知らない(1400万人)、知っていながらも治療がなされていない(450万人)、治療をしていても目標に達していない(1250万人)方々です。脳卒中、心臓病、腎臓病などを予防するうえで血圧は非常に重要で、患者さん、ご家族の方々の病気に対する理解も大切です。
高血圧

高血圧とは?

高血圧は、血圧の値のうち上の血圧が140mmHg以上の場合、または下の血圧が90mmHg以上の場合、あるいはこれらの両方を満たす場合に診断されます。そのままにしておくと動脈硬化が進行して脳卒中や心臓病、腎臓病など重大な病気になる危険性が高まります。

高血圧の症状とは?

高血圧は、サイレントキラー(静かなる殺人者)といわれるように、ほとんどの人で自覚症状がないにもかかわらず、脳や心臓の血管が動脈硬化を起こし、腎臓のはたらきが悪くなることもある決して侮れない病気です。わが国で年間10万人以上の方が、高血圧が原因で亡くなっています。
早朝の頭痛、夜の頻尿や呼吸困難、めまいやふらつき、下肢冷感(足の冷えを感じる)などの症状を認めるときは、高血圧によって臓器が傷みはじめている(合併症といいます)ことが疑われます。症状がないからといって、高血圧を放置すると、突然、脳卒中や心筋梗塞など命に関わる病気になることがあるほか、徐々に腎機能が低下して透析になってしまうこともあるので、早めに「かかりつけ医」に相談しましょう。

高血圧の診断とは?

日本高血圧学会のガイドラインでは、血圧の値を次の表のように分類しています。
血圧値の分類
このうち、診察室血圧の測定は1日だけでなく別の日にも行い、数回の測定結果をもとに判定します。そして、上の血圧(収縮期血圧)/下の血圧(拡張期血圧)のどちらか一方でも140/90mmHg以上であれば高血圧と診断されます。また、家庭血圧の値が5~7日の平均でどちらか一方でも135/85mmHg以上である場合も高血圧と診断され、高血圧の判定では家庭血圧の値のほうが優先して用いられます。

降圧目標とは?

高血圧の治療は、将来起きる可能性のある脳心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)や腎機能の悪化を予防するために行います。日本高血圧学会のガイドラインでは、降圧目標を次の表のように分類しています。
降圧目標
一般的な治療の目標として、75歳未満は診察室血圧で130/80mmHg未満を、75歳以上でも140/90mmHg未満を目指します。合併している病気の状態などによって、より厳格に下げたほうがよい場合や、逆に慎重に下げたほうがよい場合があります。

高血圧の予防とは?

食事、運動、嗜好品などの生活習慣を修正することで高血圧の予防や改善が期待できます。具体的には減塩、肥満の予防や改善、飲酒している人の節酒などに加えて、運動習慣や食事のパターンの見直しなどが有効です。禁煙も推奨されます。その他、防寒や情動ストレスのコントロールも有効といわれています。こういった生活習慣の修正はひとつだけを集中して行うよりも、組み合わせて行うことで効果が出てきます。軽症な高血圧の場合には生活習慣の修正から治療を始めます。
高血圧の予防

食塩制限(減塩)

減塩は血圧を下げるだけでなく、脳卒中や心疾患、腎臓病と直接関係がある可能性もあります。とくに食塩摂取量の多い日本人では減塩による降圧効果が大きいと考えられます。高血圧の人は1日6g未満が目標です。いきなり厳しい減塩にすると体調を崩すこともあるので、少しずつ摂取量を落としましょう。

適正体重

肥満の有無は、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出する「体格指数(BMI)」で判断します。BMIの正常範囲は18.5~25.0(kg/m2)で、肥満者はBMI 25.0未満を目指して減量をします。肥満は高血圧だけでなく、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、肝障害、腎障害など多くの病気の原因となります。個人差はありますが、3~4kg減量すれば血圧の低下が期待できると言われています。

節酒

継続して一定量以上のアルコールを飲むと高血圧の原因になります。多量飲酒は高血圧以外にも脳卒中や心筋症、心房細動、夜間睡眠時無呼吸などを引き起こします。アルコール自体の量で男性20~30mL/日以下、女性10~20mL/日以下に控えてください。アルコール20~30mL/日は、おおよそ日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウィスキー・ブランデーはダブルで1杯、ワインは2杯とされています。

運動

高血圧をはじめとする生活習慣病の予防や治療には, 速歩・ステップ運動・スロージョギング・ランニングのような有酸素・持久性・動的運動が推奨されています。運動の強さも、ややきつい程度にとどめます。あまりきつい運動にすると血圧が運動中に上がる可能性があり、高血圧のある人にはすすめられません。時間は毎日30分以上、または週180分以上が目安です。ただし、これらの目標は運動に慣れてきたときの目安と考え、軽め、短めの運動から少しずつ上げていきましょう。

降圧薬の治療とは?

降圧薬による治療は、生活習慣を改善しても血圧が目標までなかなか下がらない場合に行います。血圧を下げる薬には多くの種類があり、そのなかから患者さんの血圧値や全身状態、その他の病気の有無などによって最適な薬を決めていきます。十分に血圧を低下させるためにはいくつかの薬を組み合わせなければならないこともありますが、最近では2種類以上の成分が含まれる配合剤が登場し、服薬の負担が少なくなるよう工夫されています。服薬する量や時間帯は患者さんによってそれぞれですので、医師のアドバイスを受けましょう。また、自己判断で服薬をやめることなく、疑問があるときは医師に相談しましょう。
降圧薬の治療
(引用)高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会
一般向け「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子 高血圧の話 日本高血圧学会

脂質異常症

血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を、脂質異常症といいます。脂質の異常には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常があります。これらはいずれも、動脈硬化の促進と関連します。現在、日本では、動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞・狭心症等の冠動脈疾患を含む心疾患や、脳梗塞等の脳血管障害による死亡は、総死亡の約23%を占め、悪性新生物による死亡と匹敵する主要な死因となっています。従って、これらの疾患の基盤にある動脈硬化症の予防と治療のために、脂質のコントロールは非常に重要です。
脂質異常症

脂質異常症とは?

LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライドのうち、メタボリックシンドロームの診断基準に用いられる脂質の指標は、HDLコレステロールとトリグリセライドです。しかし、LDLコレステロールは単独でも強力に動脈硬化を進行させるため、メタボリックシンドロームの有無に関係なく、LDLコレステロールの値にも注意する必要があります。
脂質異常症の診断基準は次の表のとおりですが、この基準に当てはまる場合でも、すぐに治療が必要というわけではありません。
脂質異常症の診断基準表

脂質異常症の原因とは?

LDLコレステロールの高値の原因として、まず第一に食事中の飽和脂肪酸のとりすぎがあげられます。飽和脂肪酸は、肉の脂身(赤身ではなく白い部分。バラ肉、ひき肉、鶏肉の皮も含む)・バターやラード・生クリームなどに多く含まれます。パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも含まれています。一般的には、冷蔵庫の中で固まっている油脂は、飽和脂肪酸の多い油脂であることが多く、サラダ油や魚油のような液体の油は、不飽和脂肪酸の多い油脂であることが多くなっています。

脂質異常症の改善方法とは?

また食事中のコレステロールもLDLコレステロールを高くしますが、個人差が大きく、飽和脂肪酸と比べると、影響が小さいことが知られています。食事中のコレステロールは、主に鶏卵の黄身や魚卵から摂取されます。なお、食事中のコレステロールの上限値については専門家の間で決着がついておらず、現行の厚生労働省「日本人の食事摂取基準」では、食事中のコレステロールについては上限値を設けていません。しかし、食事中のコレステロールを無制限にとってよいということではありません。LDLコレステロールが高い人で、飽和脂肪酸やコレステロールを食べる量が非常に多い人は、その量を控えることで、比較的容易にLDLコレステロールを下げることができます。動脈硬化性疾患予防ガイドラインでも高LDLコレステロール血症の患者では、コレステロールの摂取を200mg/日未満に制限することでLDLコレステロールを低下させ、動脈硬化性疾患発症を予防できる可能性があるため、コレステロール接種制限を推奨するとされています。
食事中の飽和脂肪酸と血中のコレステロールとの関係は、食事中のコレステロールと血中のコレステロールとの関係よりも強く、LDLコレステロールが高い人がまず第一に行うべきことは、飽和脂肪酸のとりすぎを改めることです。現時点では、LDLコレステロールが高い人が注意すべきことは、まず飽和脂肪酸であり、次いで鶏卵などコレステロールの多い食品についても食べすぎないようにすることがすすめられます。
トリグリセライド(中性脂肪)の高値の要因としては、エネルギー量のとりすぎ、特に甘いものや酒・油もの・糖質のとりすぎがあげられます。砂糖の入ったソフトドリンクを飲む習慣のある人も多い傾向があります。これらを改めて運動や減量を行うことで、中性脂肪を下げることができます。また背の青い魚に多く含まれるn-3系(ω-3系)多価不飽和脂肪酸には、トリグリセライド(中性脂肪)を下げる働きがあります。
動脈硬化性疾患予防ガイドラインでも、肉の脂身や動物脂(牛脂、ラード、バター)、加工肉を控え、大豆、魚、海藻、きのこ、果物、未精製穀類を取り合わせて食べる減塩した日本食パターンの食事は血清脂質を改善し、動脈硬化性疾患の予防が期待されるため推奨されています。
日本動脈硬化学会では、日本食パターンの例として、「The Japan Diet」を推奨しています。
脂質異常症の診断基準表
HDLコレステロールの低値はトリグリセライド(中性脂肪)の高値と連動することが多く、その要因は、肥満や喫煙・運動不足です。運動や減量・禁煙によりHDLコレステロールの上昇が見込まれます。
また、成人では、1日合計30分以上を週3回以上(可能であれば毎日)、または週に150分以上中強度以上の有酸素運動を実施することは血清脂質を改善するため推奨されます。
運動療法指針

脂質異常症の治療薬とは?

脂質異常症治療薬としてはスタチン系薬、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、陰イオン交換膜樹脂、プロブコール、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、フィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーター、ニコチン酸誘導体、n-3系多価不飽和脂肪酸の10つの種類があります。脂質異常症治療で重要なのはLDLコレステロールの管理であり、薬物療法を行うに当たってはスタチンを第一選択薬として、必要に応じて他の薬剤の併用について考慮するのが基本です。脳卒中治療ガイドライン2021でも、脳梗塞の再発予防に脂質異常症のコントロールが推奨されており、高用量のスタチン系薬剤は脳梗塞の再発予防に有効であるとされています。また、低用量スタチン系薬剤で脂質異常症を治療中の患者において、n-3系多価不飽和脂肪酸の併用が脳卒中再発予防に有効であるとされています。その他、単剤療法では、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)、陰イオン交換樹脂(レジン)、スタチン不耐患者にはPCSK9阻害薬があります。
(引用)
e-ヘルスネット 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
脳卒中治療ガイドライン2021 一般社団法人日本脳卒中学会
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 一般社団法人日本動脈硬化学会
かかりつけ医のための適正処方の手引き 日本医師会
動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療のエッセンス 一般社団法人日本動脈硬化学会